会談があったはずである。
 源氏は明石から送って来た使いに手紙を持たせて帰した。夫人にはばかりながらこまやかな情を女に書き送ったのである。
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毎夜毎夜悲しく思っているのですか、

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歎きつつ明石の浦に朝霧の立つやと人を思ひやるかな
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 こんな内容であった。
 大弐《だいに》の娘の五節《ごせち》は、一人でしていた心の苦も解消したように喜んで、どこからとも言わせない使いを出して、二条の院へ歌を置かせた。

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須磨の浦に心を寄せし船人のやがて朽《く》たせる袖《そで》を見せばや
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 字は以前よりずっと上手《じょうず》になっているが、五節に違いないと源氏は思って返事を送った。

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かへりてはかごとやせまし寄せたりし名残《なごり》に袖の乾《ひ》がたかりしを
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 源氏はずいぶん好きであった女であるから、誘いかけた手紙を見ては訪ねたい気がしきりにするのであるが、当分は不謹慎なこともできないように思われた。花散里《はなちるさと》などへも手紙
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