もとで昔をお忍びになって帝はお心をしめらせておいでになった。お心細い御様子である。
「音楽をやらせることも近ごろはない。あなたの琴の音もずいぶん長く聞かなんだね」
と仰せられた時、
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わたつみに沈みうらぶれひるの子の足立たざりし年は経にけり
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と源氏が申し上げると、帝は兄君らしい憐《あわれ》みと、君主としての過失をみずからお認めになる情を優しくお見せになって、
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宮ばしらめぐり逢ひける時しあれば別れし春の恨み残すな
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と仰せられた。艶《えん》な御様子であった。
源氏は院の御為《おんため》に法華経《ほけきょう》の八講を行なう準備をさせていた。
東宮にお目にかかると、ずっとお身大きくなっておいでになって、珍しい源氏の出仕をお喜びになるのを、限りもなくおかわいそうに源氏は思った。学問もよくおできになって、御位《みくらい》におつきになってもさしつかえはないと思われるほど御|聡明《そうめい》であることがうかがわれた。少し日がたって気の落ち着いたころに御訪問した入道の宮ででも、感慨無量な御
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