って星の光も見えてきた。そうなるとこの人々は源氏の居場所があまりにもったいなく思われて、寝殿のほうへ席を移そうとしたが、そこも焼け残った建物がすさまじく見え、座敷は多数の人間が逃げまわった時に踏みしだかれてあるし、御簾《みす》なども皆風に吹き落とされていた。今夜夜通しに後始末《あとしまつ》をしてからのことに決めて、皆がそんなことに奔走している時、源氏は心経《しんぎょう》を唱えながら、静かに考えてみるとあわただしい一日であった。月が出てきて海潮の寄せた跡が顕《あら》わにながめられる。遠く退《の》いてもまだ寄せ返しする浪《なみ》の荒い海べのほうを戸をあけて源氏はながめていた。今日までのこと明日からのことを意識していて、対策を講じ合うに足るような人は近い世界に絶無であると源氏は感じた。漁村の住民たちが貴人の居所を気にかけて、集まって来て訳のわからぬ言葉でしゃべり合っているのも礼儀のないことであるが、それを追い払う者すらない。
「あの大風がもうしばらくやまなかったら、潮はもっと遠くへまで上って、この辺なども形を残していまい。やはり神様のお助けじゃ」
 こんなことの言われているのも聞く身にとって
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