みのある間だけ煩悶《はんもん》をせずにいた。
源氏は浪速《なにわ》に船を着けて、そこで祓《はら》いをした。住吉《すみよし》の神へも無事に帰洛《きらく》の日の来た報告をして、幾つかの願《がん》を実行しようと思う意志のあることも使いに言わせた。自身は参詣《さんけい》しなかった。途中の見物などもせずにすぐに京へはいったのであった。
二条の院へ着いた一行の人々と京にいた人々は夢心地《ゆめごこち》で逢い、夢心地で話が取りかわされた。喜び泣きの声も騒がしい二条の院であった。紫夫人も生きがいなく思っていた命が、今日まであって、源氏を迎ええたことに満足したことであろうと思われる。美しかった人のさらに完成された姿を二年半の時間ののちに源氏は見ることができたのである。寂しく暮らした間に、あまりに多かった髪の量の少し減ったまでもがこの人をより美しく思わせた。こうしてこの人と永久に住む家へ帰って来ることができたのであると、源氏の心の落ち着いたのとともに、またも別離を悲しんだ明石の女がかわいそうに思いやられた。源氏は恋愛の苦にどこまでもつきまとわれる人のようである。源氏は夫人に明石の君のことを話した。女王は
前へ
次へ
全54ページ中50ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング