へ見えるようなことはなさらないほうがよい。軽々しく思われます」
 と母君は申されるのであった。おにらみになる父帝の目と視線をお合わせになったためでか、帝は眼病におかかりになって重くお煩《わずら》いになることになった。御謹慎的な精進を宮中でもあそばすし、太后の宮でもしておいでになった。また太政大臣が突然|亡《な》くなった。もう高齢であったから不思議でもないのであるが、そのことから不穏な空気が世上に醸《かも》されていくことにもなったし、太后も何ということなしに寝ついておしまいになって、長く御|平癒《へいゆ》のことがない。御衰弱が進んでいくことで帝は御心痛をあそばされた。
「私はやはり源氏の君が犯した罪もないのに、官位を剥奪《はくだつ》されているようなことは、われわれの上に報いてくることだろうと思います。どうしても本官に復させてやらねばなりません」
 このことをたびたび帝は太后へ仰せになるのであった。
「それは世間の非難を招くことですよ。罪を恐れて都を出て行った人を、三年もたたないでお許しになっては天下の識者が何と言うでしょう」
 などとお言いになって、太后はあくまでも源氏の復職に賛成をあそ
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