の聞きか悩まん
[#ここで字下げ終わり]
手も書き方も京の貴女《きじょ》にあまり劣らないほど上手《じょうず》であった。こんな女の手紙を見ていると京の生活が思い出されて源氏の心は楽しかったが、続いて毎日手紙をやることも人目がうるさかったから、二、三日置きくらいに、寂しい夕方とか、物哀れな気のする夜明けとかに書いてはそっと送っていた。あちらからも返事は来た。相手をするに不足のない思い上がった娘であることがわかってきて、源氏の心は自然|惹《ひ》かれていくのであるが、良清《よしきよ》が自身の縄張《なわば》りの中であるように言っていた女であったから、今眼前横取りする形になることは彼にかわいそうであるとなお躊躇《ちゅうちょ》はされた。あちらから積極的な態度をとってくれば良清への責任も少なくなるわけであるからと、そんなことも源氏は期待していたが女のほうは貴女と言われる階級の女以上に思い上がった性質であったから、自分を卑しくして源氏に接近しようなどとは夢にも思わないのである。結局どちらが負けるかわからない。何ほども遠くなってはいないのであるが、ともかくも須磨の関が中にあることになってからは、京の女
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