ひと》り決めをしていた入道ではあっても、無遠慮に娘の婿になってほしいなどとは言い出せないのを、自身で歯がゆく思っては妻と二人で歎《なげ》いていた。娘自身も並み並みの男さえも見ることの稀《まれ》な田舎《いなか》に育って、源氏を隙見《すきみ》した時から、こんな美貌《びぼう》を持つ人もこの世にはいるのであったかと驚歎《きょうたん》はしたが、それによっていよいよ自身とその人との懸隔《けんかく》を明瞭《めいりょう》に悟ることになって、恋愛の対象などにすべきでないと思っていた。親たちが熱心にその成立を祈っているのを見聞きしては、不似合いなことを思うものであると見ているのであるが、それとともに低い身のほどの悲しみを覚え始めた。
四月になった。衣がえの衣服、美しい夏の帳《とばり》などを入道は自家で調製した。よけいなことをするものであるとも源氏は思うのであるが、入道の思い上がった人品に対しては何とも言えなかった。京からも始終そうした品物が届けられるのである。のどかな初夏の夕月夜に海上が広く明るく見渡される所にいて、源氏はこれを二条の院の月夜の池のように思われた。恋しい紫の女王《にょおう》がいるはずでい
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