なかった二人はたまたま得た会合の最初にまず泣いた。宰相は源氏の山荘が非常に唐風であることに気がついた。絵のような風光の中に、竹を編んだ垣《かき》がめぐらされ、石の階段、松の黒木の柱などの用いられてあるのがおもしろかった。源氏は黄ばんだ薄紅の服の上に、青みのある灰色の狩衣《かりぎぬ》指貫《さしぬき》の質素な装いでいた。わざわざ都風を避けた服装もいっそう源氏を美しく引き立てて見せる気がされた。室内の用具も簡単な物ばかりで、起臥《きが》する部屋も客の座から残らず見えるのである。碁盤、双六《すごろく》の盤、弾棊《たぎ》の具なども田舎《いなか》風のそまつにできた物が置かれてあった。数珠《じゅず》などがさっきまで仏勤めがされていたらしく出ていた。客の饗応《きょうおう》に出された膳部《ぜんぶ》にもおもしろい地方色が見えた。漁から帰った海人《あま》たちが貝などを届けに寄ったので、源氏は客といる座敷の前へその人々を呼んでみることにした。漁村の生活について質問をすると、彼らは経済的に苦しい世渡りをこぼした。小鳥のように多弁にさえずる話も根本になっていることは処世難である、われわれも同じことであると貴公子た
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