い者に思われて、二、三日滞留させて伊勢の話を侍臣たちに問わせたりした。若やかな気持ちのよい侍であった。閑居のことであるから、そんな人もやや近い所でほのかに源氏の風貌《ふうぼう》に接することもあって侍は喜びの涙を流していた。伊勢の消息に感動した源氏の書く返事の内容は想像されないこともない。
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こうした運命に出逢う日を予知していましたなら、どこよりも私はあなたとごいっしょの旅に出てしまうべきだったなどと、つれづれさから癖になりました物思いの中にはそれがよく思われます。心細いのです。

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伊勢人の波の上漕ぐ小船《をぶね》にもうきめは刈らで乗らましものを
あまがつむ歎《なげ》きの中にしほたれて何時《いつ》まで須磨の浦に眺《なが》めん

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いつ口ずからお話ができるであろうと思っては毎日同じように悲しんでおります。
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 というのである。こんなふうに、どの人へも相手の心の慰むに足るような愛情を書き送っては返事を得る喜びにまた自身を慰めている源氏であった。花散里《はなちるさと》も悲しい心を書き送って来た。どれにも
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