氏はどんなことにもすぐれた女になった女王がうれしかった。青春時代の恋愛も清算して、この人と静かに生を楽しもうとする時になっていたものをと思うと、源氏は運命が恨めしかった。夜も昼も女王の面影を思うことになって、堪えられぬほど恋しい源氏は、やはり若紫は須磨へ迎えようという気になった。左大臣からの返書には若君のことがいろいろと書かれてあって、それによってまた平生以上に子と別れている親の情は動くのであるが、頼もしい祖父母たちがついていられるのであるから、気がかりに思う必要はないとすぐに考えられて、子の闇《やみ》という言葉も、愛妻を思う煩悩《ぼんのう》の闇に比べて薄いものらしくこの人には見えた。
源氏が須磨へ移った初めの記事の中に筆者は書き洩《も》らしてしまったが伊勢《いせ》の御息所《みやすどころ》のほうへも源氏は使いを出したのであった。あちらからもまたはるばると文《ふみ》を持って使いがよこされた。熱情的に書かれた手紙で、典雅な筆つきと見えた。
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どうしましても現実のことと思われませんような御|隠栖《いんせい》のことを承りました。あるいはこれもまだ私の暗い心から、夜の夢の
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