みることができたりする年配の人であっても、こんなことは堪えられないに違いないのを、だれよりも睦《むつ》まじく暮らして、ある時は父にも母にもなって愛撫《あいぶ》された保護者で良人《おっと》だった人ににわかに引き離されて女王が源氏を恋しく思うのはもっともである。死んだ人であれば悲しい中にも、時間があきらめを教えるのであるが、これは遠い十万億土ではないが、いつ帰るとも定めて思えない別れをしているのであるのを夫人はつらく思うのである。
 入道の宮も東宮のために源氏が逆境に沈んでいることを悲しんでおいでになった。そのほか源氏との宿命の深さから思っても宮のお歎《なげ》きは、複雑なものであるに違いない。これまではただ世間が恐ろしくて、少しの憐《あわれ》みを見せれば、源氏はそれによって身も世も忘れた行為に出ることが想像されて、動く心もおさえる一方にして、御自身の心までも無視して冷淡な態度を取り続けられたことによって、うるさい世間であるにもかかわらず何の噂《うわさ》も立たないで済んだのである。源氏の恋にも御自身の内の感情にも成長を与えなかったのは、ただ自分の苦しい努力があったからであると思召《おぼしめ》
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