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をちかへりえぞ忍ばれぬ杜鵑ほの語らひし宿の垣根《かきね》に
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 この歌を言わせたのである。惟光がはいって行くと、この家の寝殿ともいうような所の西の端の座敷に女房たちが集まって、何か話をしていた。以前にもこうした使いに来て、聞き覚えのある声であったから、惟光は声をかけてから源氏の歌を伝えた。座敷の中で若い女房たちらしい声で何かささやいている。だれの訪れであるかがわからないらしい。

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ほととぎす語らふ声はそれながらあなおぼつかな五月雨《さみだれ》の空
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 こんな返歌をするのは、わからないふうをわざと作っているらしいので、
「では門違いなのでしょうよ」
 と惟光が言って、出て行くのを、主人《あるじ》の女だけは心の中でくやしく思い、寂しくも思った。知らぬふりをしなければならないのであろう、もっともであると源氏は思いながらも物足らぬ気がした。この女と同じほどの階級の女としては九州に行っている五節《ごせち》が可憐《かれん》であったと源氏は思った。どんな所にも源氏の心を惹《ひ》くものがあって、それがそれ相応
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