源氏物語
花散里
紫式部
與謝野晶子訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)橘《たちばな》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ]
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[#地から3字上げ]橘《たちばな》も恋のうれひも散りかへば香《か》をなつ
[#地から3字上げ]かしみほととぎす鳴く   (晶子)

 みずから求めてしている恋愛の苦は昔もこのごろも変わらない源氏であるが、ほかから受ける忍びがたい圧迫が近ごろになってますます加わるばかりであったから、心細くて、人間の生活というものからのがれたい欲求も起こるが、さてそうもならない絆《ほだし》は幾つもあった。
 麗景殿《れいげいでん》の女御《にょご》といわれた方は皇子女もなくて、院がお崩《かく》れになって以後はまったくたよりない身の上になっているのであるが、源氏の君の好意で生活はしていた。この人の妹の三の君と源氏は若い時代に恋愛をした。例の性格から関係を絶つこともなく、また夫人として待遇することもなしにまれまれ通っているのである。女としては煩悶《はんもん》をすることの多い境遇である。物哀れな心持ちにな
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