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「時ならで今朝咲く花は夏の雨に萎《しを》れにけらし匂《にほ》ふほどなく
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 すっかり衰えてしまったのに」
 あとはもう酔ってしまったふうをして源氏が飲もうとしない酒を中将は許すまいとしてしいていた。席上でできた詩歌の数は多かったが、こんな時のまじめでない態度の作をたくさん列《つら》ねておくことのむだであることを貫之《つらゆき》も警告しているのであるからここには書かないでおく。歌も詩も源氏の君を讃美《さんび》したものが多かった。源氏自身もよい気持ちになって、「文王の子武王の弟」と史記の周公伝の一節を口にした。その文章の続きは成王の伯父《おじ》というのであるが、これは源氏が明瞭《めいりょう》に言いえないはずである。兵部卿《ひょうぶきょう》の宮も始終二条の院へおいでになって、音楽に趣味を持つ方であったから、よくいっしょにそんな遊びをされるのであった。
 その時分に尚侍《ないしのかみ》が御所から自邸へ退出した。前から瘧病《わらわやみ》にかかっていたので、禁厭《まじない》などの宮中でできない療法も実家で試みようとしてであった。修法《しゅほう》な
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