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 私にはそう思えますが、御出家のおできになったお心持ちには敬服いたされます」
 とだけ言って、お居間に女房たちも多い様子であったから源氏は捨てられた男の悲痛な心持ちを簡単な言葉にして告げることもできなかった。

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「大方《おほかた》の憂《う》きにつけては厭《いと》へどもいつかこの世を背《そむ》きはつべき
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 りっぱな信仰を持つようにはいつなれますやら」
 宮の御挨拶は東宮へのお返事を兼ねたお心らしかった。悲しみに堪えないで源氏は退出した。
 二条の院へ帰っても西の対へは行かずに、自身の居間のほうに一人|臥《ぶ》しをしたが眠りうるわけもない。ますます人生が悲しく思われて自身も僧になろうという心の起こってくるのを、そうしては東宮がおかわいそうであると思い返しもした。せめて母宮だけを最高の地位に置いておけばと院は思召したのであったが、その地位も好意を持たぬ者の苦しい圧迫のためにお捨てになることになった。尼におなりになっては后《きさき》としての御待遇をお受けになることもおできにならないであろうし、その上自分までが東宮のお力
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