、だれもほかにお世話をする人もない方でございますから、親切にしてさしあげております。東宮と私どもとの関係からもお捨てしておけませんのです」
と源氏は奏上した。
「院は東宮を自分の子と思って愛するようにと仰せなすったからね、自分はどの兄弟よりも大事に思っているが、目に立つようにしてもと思って、自分で控え目にしている。東宮はもう字などもりっぱなふうにお書きになる。すべてのことが平凡な自分の不名誉をあの方が回復してくれるだろうと頼みにしている」
「それはいろんなことを大人のようになさいますが、まだ何と申しても御幼齢ですから」
源氏は東宮の御勉学などのことについて奏上をしたのちに退出して行く時皇太后の兄である藤大納言の息子《むすこ》の頭《とう》の弁《べん》という、得意の絶頂にいる若い男は、妹の女御《にょご》のいる麗景殿《れいげいでん》に行く途中で源氏を見かけて、「白虹《はくこう》日を貫けり、太子|懼《お》ぢたり」と漢書の太子丹が刺客を秦王《しんのう》に放った時、その天象《てんしょう》を見て不成功を恐れたという章句をあてつけにゆるやかに口ずさんだ。源氏はきまり悪く思ったがとがめる必要もなくそ
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