源氏の愛を不安がる様子の見えるのが可憐《かれん》であった。幾人かの人を思う幾つかの煩悶《はんもん》は外へ出て、この人の目につくほどのことがあったのであろう、「色変はる」というような歌を詠《よ》んできたのではないかと哀れに思って、源氏は常よりも強い愛を夫人に感じた。山から折って帰った紅葉《もみじ》は庭のに比べるとすぐれて紅《あか》くきれいであったから、それを、長く何とも手紙を書かないでいることによって、また堪えがたい寂しさも感じている源氏は、ただ何でもない贈り物として、御所においでになる中宮《ちゅうぐう》の所へ持たせてやった。手紙は命婦《みょうぶ》へ書いたのであった。
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珍しく御所へおはいりになりましたことを伺いまして、両宮様いずれへも御無沙汰《ごぶさた》しておりますので、その際にも上がってみたかったのですが、しばらく宗教的な勉強をしようとその前から思い立っていまして、日どりなどを決めていたものですから失礼いたしました。紅葉《もみじ》は私一人で見ていましては、錦を暗い所へ置いておく気がしてなりませんから持たせてあげます。よろしい機会に宮様のお目にかけてください。
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