に秋の花野もながめがてらに雲林院へ行った。源氏の母君の桐壺《きりつぼ》の御息所《みやすどころ》の兄君の律師《りっし》がいる寺へ行って、経を読んだり、仏勤めもしようとして、二、三日こもっているうちに身にしむことが多かった。木立ちは紅葉《もみじ》をし始めて、そして移ろうていく秋草の花の哀れな野をながめていては家も忘れるばかりであった。学僧だけを選んで討論をさせて聞いたりした。場所が場所であるだけ人生の無常さばかりが思われたが、その中でなお源氏は恨めしい人に最も心を惹《ひ》かれている自分を発見した。朝に近い月光のもとで、僧たちが閼伽《あか》を仏に供える仕度《したく》をするのに、からからと音をさせながら、菊とか紅葉とかをその辺いっぱいに折り散らしている。こんなことは、ちょっとしたことではあるが、僧にはこんな仕事があって退屈を感じる間もなかろうし、未来の世界に希望が持てるのだと思うとうらやましい、自分は自分一人を持てあましているではないかなどと源氏は思っていた。律師が尊い声で「念仏衆生《ねんぶつしゆじやう》摂取不捨《せつしゆふしや》」と唱えて勤行《ごんぎょう》をしているのがうらやましくて、この世
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