今夜ほどに接近するのをお許しくだすって、今後も時々は私の心を聞いてくださいますなら、私はそれ以上の無礼をしようとは思いません」
 こんなふうに言って油断をおさせしようとした。今後の場合のために。
 こうした深刻な関係でなくても、これに類したあぶない逢瀬《おうせ》を作る恋人たちは別れが苦しいものであるから、まして源氏にここは離れがたい。夜が明けてしまったので王命婦と弁とが源氏の退去をいろいろに言って頼んだ。宮様は半ば死んだようになっておいでになるのである。
「恥知らずの男がまだ生きているかとお思われしたくありませんから、私はもうそのうち死ぬでしょう。そしたらまた死んだ魂がこの世に執着を持つことで罰せられるのでしょう」
 恐ろしい気がするほど源氏は真剣になっていた。

[#ここから1字下げ]
「逢ふことの難《かた》きを今日に限らずばなほ幾世をか歎《なげ》きつつ経ん
[#ここで字下げ終わり]

 どうなってもこうなっても私はあなたにつきまとっているのですよ」
 宮は吐息《といき》をおつきになって、

[#ここから2字下げ]
長き世の恨みを人に残してもかつは心をあだとしらなん
[#ここで字下げ
前へ 次へ
全66ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング