ら》もとの几帳《きちょう》の下から、三日の夜の餠のはいった器を中へ入れて行った。この餠の説明も新夫人に源氏が自身でしたに違いない。だれも何の気もつかなかったが、翌朝その餠の箱が寝室から下げられた時に、側近している女房たちにだけはうなずかれることがあった。皿などもいつ用意したかと思うほど見事な華足《けそく》付きであった。餠もことにきれいに作られてあった。少納言は感激して泣いていた。結婚の形式を正しく踏んだ源氏の好意がうれしかったのである。
「それにしても私たちへそっとお言いつけになればよろしいのにね。あの人が不思議に思わなかったでしょうかね」
とささやいていた。
若紫と新婚後は宮中へ出たり、院へ伺候していたりする間も絶えず源氏は可憐《かれん》な妻の面影を心に浮かべていた。恋しくてならないのである。不思議な変化が自分の心に現われてきたと思っていた。恋人たちの所からは長い途絶えを恨めしがった手紙も来るのであるが、無関心ではいられないものもそれらの中にはあっても、新婚の快い酔いに身を置いている源氏に及ぼす力はきわめて微弱なものであったに違いない。厭世《えんせい》的になっているというふうを源
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