あまりに少女《おとめ》らしい人だと可憐《かれん》に思って、一日じゅうそばについていて慰めたが、打ち解けようともしない様子がいっそうこの人をかわゆく思わせた。
 その晩は亥《い》の子の餠《もち》を食べる日であった。不幸のあったあとの源氏に遠慮をして、たいそうにはせず、西の対へだけ美しい檜破子詰《ひわりごづ》めの物をいろいろに作って持って来てあった。それらを見た源氏が、南側の座敷へ来て、そこへ惟光《これみつ》を呼んで命じた。
「餠をね、今晩のようにたいそうにしないでね、明日の日暮れごろに持って来てほしい。今日は吉日じゃないのだよ」
 微笑しながら言っている様子で、利巧《りこう》な惟光はすべてを察してしまった。
「そうでございますとも、おめでたい初めのお式は吉日を選びませんでは。それにいたしましても、今晩の亥の子でない明晩の子《ね》の子餠はどれほど作ってまいったものでございましょう」
 まじめな顔で聞く。
「今夜の三分の一くらい」
 と源氏は答えた。心得たふうで惟光は立って行った。きまりを悪がらせない世馴《よな》れた態度が取れるものだと源氏は思った。だれにも言わずに、惟光はほとんど手ずからと
前へ 次へ
全64ページ中57ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング