《ごぶさた》申し上げていることが心苦しくてならぬというような話を源氏は命婦にして夜ふけになってから退出した。
 二条の院はどの御殿もきれいに掃除《そうじ》ができていて、男女が主人の帰りを待ちうけていた。身分のある女房も今日は皆そろって出ていた。はなやかな服装をしてきれいに粧《よそお》っているこの女房たちを見た瞬間に源氏は、気をめいらせはてた女房が肩を連ねていた、左大臣家を出た時の光景が目に浮かんで、あの人たちが哀れに思われてならなかった。源氏は着がえをしてから西の対《たい》へ行った。残らず冬期の装飾に変えた座敷の中がはなやかに見渡された。若い女房や童女たちの服装も皆きれいにさせてあって、少納言の計らいに敬意が表されるのであった。紫の女王《にょおう》は美しいふうをしてすわっていた。
「長くお逢《あ》いしなかったうちに、とても大人になりましたね」
 几帳《きちょう》の垂《た》れ絹を引き上げて顔を見ようとすると、少しからだを小さくして恥ずかしそうにする様子に一点の非も打たれぬ美しさが備わっていた。灯《ひ》に照らされた側面、頭の形などは初恋の日から今まで胸の中へ最もたいせつなものとしてしまって
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