で食事をおさせになったりした。いろいろとおいたわりになる御親心を源氏はもったいなく思った。中宮《ちゅうぐう》の御殿へ行くと、女房たちは久しぶりの源氏の伺候を珍しがって、皆集まって来た。中宮も命婦《みょうぶ》を取り次ぎにしてお言葉があった。
「大きな打撃をお受けになったあなたですから、時がたちましてもなかなかお悲しみはゆるくなるようなこともないでしょう」
「人生の無常はもうこれまでにいろいろなことで教訓されて参った私でございますが、目前にそれが証明されてみますと、厭世《えんせい》的にならざるをえませんで、いろいろと煩悶《はんもん》をいたしましたが、たびたびかたじけないお言葉をいただきましたことによりまして、今日までこうしていることができたのでございます」
と源氏は挨拶《あいさつ》をした。こんな時でなくても心の湿ったふうのよく見える人が、今日はまたそのほかの寂しい影も添って人々の同情を惹《ひ》いた。無紋の袍《ほう》に灰色の下襲《したがさね》で、冠《かむり》は喪中の人の用いる巻纓《けんえい》であった。こうした姿は美しい人に落ち着きを加えるもので艶《えん》な趣が見えた。東宮へも久しく御無沙汰
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