っと空間をながめて物思わしいふうをしていた。源氏が婿でなくなったことが老大臣には惜しんでも惜しんでも足りなく思えるらしい。「旧枕故衾誰与共《きうちんこきんたれとともにせん》」という詩の句の書かれた横に、
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亡《な》き魂《たま》ぞいとど悲しき寝し床《とこ》のあくがれがたき心ならひに
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と書いてある。「鴛鴦瓦冷霜花重《ゑんあうかはらにひえてさうくわおもし》」と書いた所にはこう書かれてある。
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君なくて塵《ちり》積もりぬる床なつの露うち払ひいく夜|寝《い》ぬらん
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ここにはいつか庭から折らせて源氏が宮様へ贈ったのと同じ時の物らしい撫子《なでしこ》の花の枯れたのがはさまれていた。大臣は宮にそれらをお見せした。
「私がこれほどかわいい子供というものがあるだろうかと思うほどかわいかった子は、私と長く親子の縁を続けて行くことのできない因縁の子だったかと思うと、かえってなまじい親子でありえたことが恨めしいと、こんなふうにしいて思って忘れようとするのですが、日がたつにしたがって堪えられなく恋しくなるの
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