れてきたことを、死んだ尼君が絶え間ない祈願に愛孫のことを言って仏にすがったその効験《ききめ》であろうと思うのであったが、権力の強い左大臣家に第一の夫人があることであるし、そこかしこに愛人を持つ源氏であることを思うと、真実の結婚を見るころになって面倒《めんどう》が多くなり、姫君に苦労が始まるのではないかと恐れていた。しかしこれには特異性がある。少女の日にすでにこんなに愛している源氏であるから将来もたのもしいわけであると見えた。母方の祖母の喪は三か月であったから、師走《しわす》の三十日に喪服を替えさせた。母代わりをしていた祖母であったから除喪のあとも派手《はで》にはせず濃くはない紅の色、紫、山吹《やまぶき》の落ち着いた色などで、そして地質のきわめてよい織物の小袿《こうちぎ》を着た元日の紫の女王は、急に近代的な美人になったようである。源氏は宮中の朝拝の式に出かけるところで、ちょっと西の対へ寄った。
「今日からは、もう大人になりましたか」
と笑顔《えがお》をして源氏は言った。光源氏の美しいことはいうまでもない。紫の君はもう雛《ひな》を出して遊びに夢中であった。三尺の据棚《すえだな》二つにいろ
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