越感があるようである。
「なあに、それよりもせっかく来ながら無駄だった人が気の毒だ。まったくは君やっかいな女だね」
秘密にしようと言い合ったが、それからのち中将はどれだけあの晩の騒ぎを言い出して源氏を苦笑させたかしれない。それは恋しい女のために受ける罰でもないのである。女は続いて源氏の心を惹《ひ》こうとしていろいろに技巧を用いるのを源氏はうるさがっていた。中将は妹にもその話はせずに、自分だけが源氏を困らせる用に使うほうが有利だと思っていた。よい外戚をお持ちになった親王方も帝《みかど》の殊寵《しゅちょう》される源氏には一目置いておいでになるのであるが、この頭中将だけは、負けていないでもよいという自信を持っていた。ことごとに競争心を見せるのである。左大臣の息子《むすこ》の中でこの人だけが源氏の夫人と同腹の内親王の母君を持っていた。源氏の君はただ皇子であるという点が違っているだけで、自分も同じ大臣といっても最大の権力のある大臣を父として、皇女から生まれてきたのである、たいして違わない尊貴さが自分にあると思うものらしい。人物も怜悧《れいり》で何の学問にも通じたりっぱな公子であった。つまらぬ事
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