して言う。

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「笹《ささ》分けば人や咎《とが》めんいつとなく駒|馴《な》らすめる森の木隠れ
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 あなたの所はさしさわりが多いからうっかり行けない」
 こう言って、立って行こうとする源氏を、典侍は手で留めて、
「私はこんなにまで煩悶《はんもん》をしたことはありませんよ。すぐ捨てられてしまうような恋をして一生の恥をここでかくのです」
 非常に悲しそうに泣く。
「近いうちに必ず行きます。いつもそう思いながら実行ができないだけですよ」
 袖《そで》を放させて出ようとするのを、典侍はまたもう一度追って来て「橋柱」(思ひながらに中や絶えなん)と言いかける所作《しょさ》までも、お召《めし》かえが済んだ帝が襖子《からかみ》からのぞいておしまいになった。不つり合いな恋人たちであるのを、おかしく思召《おぼしめ》してお笑いになりながら、帝は、
「まじめ過ぎる恋愛ぎらいだと言っておまえたちの困っている男もやはりそうでなかったね」
 と典侍《ないしのすけ》へお言いになった。典侍はきまり悪さも少し感じたが、恋しい人のためには濡衣《ぬれぎぬ》でさえも着たがる者がある
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