でも若作りをするものだと源氏は思いながらも、どう思っているだろうと知りたい心も動いて、後ろから裳《も》の裾《すそ》を引いてみた。はなやかな絵をかいた紙の扇で顔を隠すようにしながら見返った典侍の目は、瞼《まぶた》を張り切らせようと故意に引き伸ばしているが、黒くなって、深い筋のはいったものであった。妙に似合わない扇だと思って、自身のに替えて源典侍《げんてんじ》のを見ると、それは真赤《まっか》な地に、青で厚く森の色が塗られたものである。横のほうに若々しくない字であるが上手《じょうず》に「森の下草老いぬれば駒《こま》もすさめず刈る人もなし」という歌が書かれてある。厭味《いやみ》な恋歌などは書かずともよいのにと源氏は苦笑しながらも、
「そうじゃありませんよ、『大荒木の森こそ夏のかげはしるけれ』で盛んな夏ですよ」
こんなことを言う恋の遊戯にも不似合いな相手だと思うと、源氏は人が見ねばよいがとばかり願われた。女はそんなことを思っていない。
[#ここから2字下げ]
君し来《こ》ば手馴《てな》れの駒《こま》に刈り飼はん盛り過ぎたる下葉なりとも
[#ここで字下げ終わり]
とても色気たっぷりな表情を
前へ
次へ
全38ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング