のほうにすわって、
「こちらへいらっしゃい」
と言っても素知らぬ顔をしている。「入りぬる磯《いそ》の草なれや」(みらく少なく恋ふらくの多き)と口ずさんで、袖《そで》を口もとにあてている様子にかわいい怜悧《りこう》さが見えるのである。
「つまらない歌を歌っているのですね。始終見ていなければならないと思うのはよくないことですよ」
源氏は琴を女房に出させて紫の君に弾《ひ》かせようとした。
「十三|絃《げん》の琴は中央の絃《いと》の調子を高くするのはどうもしっくりとしないものだから」
と言って、柱《じ》を平調に下げて掻《か》き合わせだけをして姫君に与えると、もうすねてもいず美しく弾き出した。小さい人が左手を伸ばして絃《いと》をおさえる手つきを源氏はかわいく思って、自身は笛を吹きながら教えていた。頭がよくてむずかしい調子などもほんの一度くらいで習い取った。何ごとにも貴女《きじょ》らしい素質の見えるのに源氏は満足していた。保曾呂倶世利《ほそろぐせり》というのは変な名の曲であるが、それをおもしろく笛で源氏が吹くのに、合わせる琴の弾き手は小さい人であったが音の間が違わずに弾けて、上手《じょうず》
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