言いになって、非常にかわいくお思いになる様子が拝された。源氏は顔の色も変わる気がしておそろしくも、もったいなくも、うれしくも、身にしむようにもいろいろに思って涙がこぼれそうだった。ものを言うようなかっこうにお口をお動かしになるのが非常にお美しかったから、自分ながらもこの顔に似ているといわれる顔は尊重すべきであるとも思った。宮はあまりの片腹痛さに汗を流しておいでになった。源氏は若宮を見て、また予期しない父性愛の心を乱すもののあるのに気がついて退出してしまった。
 源氏は二条の院の東の対《たい》に帰って、苦しい胸を休めてから後刻になって左大臣家へ行こうと思っていた。前の庭の植え込みの中に何木となく、何草となく青くなっている中に、目だつ色を作って咲いた撫子《なでしこ》を折って、それに添える手紙を長く王命婦《おうみょうぶ》へ書いた。

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よそへつつ見るに心も慰まで露けさまさる撫子の花

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花を子のように思って愛することはついに不可能であることを知りました。
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 とも書かれてあった。だれも来ぬ隙《すき》があったか命婦はそれを宮の
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