かった。このことによって救われない悪名を負う人になるのかと、こんな煩悶《はんもん》をされることが自然おからだにさわってお加減も悪いのであった。それを聞いても源氏はいろいろと思い合わすことがあって、目だたぬように産婦の宮のために修法《しゅほう》などをあちこちの寺でさせていた。この間に御病気で宮が亡《な》くなっておしまいにならぬかという不安が、源氏の心をいっそう暗くさせていたが、二月の十幾日に皇子が御誕生になったので、帝も御満足をあそばし、三条の宮の人たちも愁眉《しゅうび》を開いた。なお生きようとする自分の心は未練で恥ずかしいが、弘徽殿《こきでん》あたりで言う詛《のろ》いの言葉が伝えられている時に自分が死んでしまってはみじめな者として笑われるばかりであるから、とそうお思いになった時からつとめて今は死ぬまいと強くおなりになって、御衰弱も少しずつ恢復《かいふく》していった。
 帝は新皇子を非常に御覧になりたがっておいでになった。人知れぬ父性愛の火に心を燃やしながら源氏は伺候者の少ない隙《すき》をうかがって行った。
「陛下が若宮にどんなにお逢いになりたがっていらっしゃるかもしれません。それで私が
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