ょう」と挨拶《あいさつ》の声も立てなかった。源氏は静かに門を出て行ったのである。
二条の院へ帰って、源氏は又寝《またね》をしながら、何事も空想したようにはいかないものであると思って、ただ身分が並み並みの人でないために、一度きりの関係で退《の》いてしまうような態度の取れない点を煩悶《はんもん》するのだった。そんな所へ頭中将《とうのちゅうじょう》が訪問してきた。
「たいへんな朝寝なんですね。なんだかわけがありそうだ」
と言われて源氏は起き上がった。
「気楽な独《ひと》り寝なものですから、いい気になって寝坊をしてしまいましたよ。御所からですか」
「そうです。まだ家《うち》へ帰っていないのですよ。朱雀《すざく》院の行幸の日の楽の役と舞《まい》の役の人選が今日あるのだそうですから、大臣にも相談しようと思って退出したのです。そしてまたすぐに御所へ帰ります」
頭中将は忙しそうである。
「じゃあいっしょに行きましょう」
こう言って、源氏は粥《かゆ》や強飯《こわめし》の朝食を客とともに済ませた。源氏の車も用意されてあったが二人は一つの車に乗ったのである。あなたは眠そうだなどと中将は言って、
「私
前へ
次へ
全44ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング