》を呼んで帳台、屏風《びょうぶ》などをその場所場所に据《す》えさせた。これまで上へあげて掛けてあった几帳《きちょう》の垂《た》れ絹はおろせばいいだけであったし、畳の座なども少し置き直すだけで済んだのである。東の対へ夜着類を取りにやって寝た。姫君は恐ろしがって、自分をどうするのだろうと思うと慄《ふる》えが出るのであったが、さすがに声を立てて泣くことはしなかった。
「少納言の所で私は寝るのよ」
子供らしい声で言う。
「もうあなたは乳母《めのと》などと寝るものではありませんよ」
と源氏が教えると、悲しがって泣き寝をしてしまった。乳母は眠ることもできず、ただむやみに泣かれた。
明けてゆく朝の光を見渡すと、建物や室内の装飾はいうまでもなくりっぱで、庭の敷き砂なども玉を重ねたもののように美しかった。少納言は自身が貧弱に思われてきまりが悪かったが、この御殿には女房がいなかった。あまり親しくない客などを迎えるだけの座敷になっていたから、男の侍だけが縁の外で用を聞くだけだった。そうした人たちは新たに源氏が迎え入れた女性のあるのを聞いて、
「だれだろう、よほどお好きな方なんだろう」
などとささやい
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