高官、殿上役人などの中の優秀な人が舞い人に選ばれていて、親王方、大臣をはじめとして音楽の素養の深い人はそのために新しい稽古《けいこ》を始めていた。それで源氏の君も多忙であった。北山の寺へも久しく見舞わなかったことを思って、ある日わざわざ使いを立てた。山からは僧都《そうず》の返事だけが来た。
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先月の二十日にとうとう姉は亡《な》くなりまして、これが人生の掟《おきて》であるのを承知しながらも悲しんでおります。
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源氏は今さらのように人間の生命の脆《もろ》さが思われた。尼君が気がかりでならなかったらしい小女王はどうしているだろう。小さいのであるから、祖母をどんなに恋しがってばかりいることであろうと想像しながらも、自身の小さくて母に別れた悲哀も確かに覚えないなりに思われるのであった。源氏からは丁寧な弔慰品が山へ贈られたのである。そんな場合にはいつも少納言が行き届いた返事を書いて来た。
尼君の葬式のあとのことが済んで、一家は京の邸《やしき》へ帰って来ているということであったから、それから少しあとに源氏は自身で訪問した。凄《すご》いように荒れた邸に
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