思うのですが」
 と望んだ。
「それは姫君は何もご存じなしに、もうお寝《やす》みになっていまして」
 女房がこんなふうに言っている時に、向こうからこの隣室へ来る足音がして、
「お祖母《ばあ》様、あのお寺にいらっしった源氏の君が来ていらっしゃるのですよ。なぜ御覧にならないの」
 と女王は言った。女房たちは困ってしまった。
「静かにあそばせよ」
 と言っていた。
「でも源氏の君を見たので病気がよくなったと言っていらしたからよ」
 自分の覚えているそのことが役に立つ時だと女王は考えている。源氏はおもしろく思って聞いていたが、女房たちの困りきったふうが気の毒になって、聞かない顔をして、まじめな見舞いの言葉を残して去った。子供らしい子供らしいというのはほんとうだ、けれども自分はよく教えていける気がすると源氏は思ったのであった。
 翌日もまた源氏は尼君へ丁寧に見舞いを書いて送った。例のように小さくしたほうの手紙には、

[#ここから2字下げ]
いはけなき鶴《たづ》の一声聞きしより葦間《あしま》になづむ船ぞえならぬ

[#ここから1字下げ]
いつまでも一人の人を対象にして考えているのですよ。
[#こ
前へ 次へ
全68ページ中43ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング