求めに人を出して饗応《きょうおう》に骨を折った。
「まだ今年じゅうは山籠《やまごも》りのお誓いがしてあって、お帰りの際に京までお送りしたいのができませんから、かえって御訪問が恨めしく思われるかもしれません」
 などと言いながら僧都は源氏に酒をすすめた。
「山の風景に十分愛着を感じているのですが、陛下に御心配をおかけ申すのももったいないことですから、またもう一度、この花の咲いているうちに参りましょう、

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宮人に行きて語らん山ざくら風よりさきに来ても見るべく」
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 歌の発声も態度もみごとな源氏であった。僧都が、

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優曇華《うどんげ》の花まち得たるここちして深山《みやま》桜に目こそ移らね
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 と言うと源氏は微笑しながら、
「長い間にまれに一度咲くという花は御覧になることが困難でしょう。私とは違います」
 と言っていた。巌窟《がんくつ》の聖人《しょうにん》は酒杯を得て、

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奥山の松の戸ぼそを稀《まれ》に開《あ》けてまだ見ぬ花の顔を見るかな
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 と
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