か」
と言っているのは紀伊守であった。
源氏はもうまたこんな機会が作り出せそうでないことと、今後どうして文通をすればよいか、どうもそれが不可能らしいことで胸を痛くしていた。女を行かせようとしてもまた引き留める源氏であった。
「どうしてあなたと通信をしたらいいでしょう。あくまで冷淡なあなたへの恨みも、恋も、一通りでない私が、今夜のことだけをいつまでも泣いて思っていなければならないのですか」
泣いている源氏が非常に艶《えん》に見えた。何度も鶏《とり》が鳴いた。
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つれなさを恨みもはてぬしののめにとりあへぬまで驚かすらん
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あわただしい心持ちで源氏はこうささやいた。女は己《おのれ》を省みると、不似合いという晴がましさを感ぜずにいられない源氏からどんなに熱情的に思われても、これをうれしいこととすることができないのである。それに自分としては愛情の持てない良人《おっと》のいる伊予の国が思われて、こんな夢を見てはいないだろうかと考えると恐ろしかった。
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身の憂《う》さを歎《なげ》くにあかで明くる夜はとり重ねても音《ね》
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