にと、りっぱな体裁を保って暮らしていたのであるが、子を失った女主人《おんなあるじ》の無明《むみょう》の日が続くようになってからは、しばらくのうちに庭の雑草が行儀悪く高くなった。またこのごろの野分の風でいっそう邸内が荒れた気のするのであったが、月光だけは伸びた草にもさわらずさし込んだその南向きの座敷に命婦を招じて出て来た女主人はすぐにもものが言えないほどまたも悲しみに胸をいっぱいにしていた。
「娘を死なせました母親がよくも生きていられたものというように、運命がただ恨めしゅうございますのに、こうしたお使いが荒《あば》ら屋へおいでくださるとまたいっそう自分が恥ずかしくてなりません」
 と言って、実際堪えられないだろうと思われるほど泣く。
「こちらへ上がりますと、またいっそうお気の毒になりまして、魂も消えるようでございますと、先日|典侍《ないしのすけ》は陛下へ申し上げていらっしゃいましたが、私のようなあさはかな人間でもほんとうに悲しさが身にしみます」
 と言ってから、しばらくして命婦は帝の仰せを伝えた。
「当分夢ではないであろうかというようにばかり思われましたが、ようやく落ち着くとともに、どう
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