月二夜
與謝野晶子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)科《しぐさ》

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(例)※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]
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 新涼の季節に入つて良い月夜がつづく。月暦の上でこそ閏のために中秋は来月に延びてゐるが、実際の気候から云へば例年のやうに今が中秋の月夜の後である。月は昔から東洋人により多く喜ばれる。欧洲でも詩人は月を歌ふが、一般人は月よりも太陽を際立つて喜ぶ。それは欧洲の風土が支那や日本のやうに豊かに日光に恵まれることが少いからである。この意味で日本人は日光の恩恵に慣れて少し太陽を粗末にしてゐるとも思はれる。我国の古典文学に太陽讚美の秀れた文学が無いのも其のためであらう。この十五夜は私の住んでゐる郊外の里の秋祭であつた。良人に誘はれて散歩に出ると、武蔵野の月が黒い杉の森と森との間の稲田の上に昇つてゐた。小川の水が高く靡いた草の中に隠見して白く遠方へつづいてゐる。三四町歩いて引返すと、宅に大学生の田中悌六さんが来て待つてゐ
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