本の婦人の実力がまだまだ選挙権を要求する程度に達していないのはいうまでもないが、さりとて私は日本の教育ある中年以下の婦人たちが全く政治上に注意を向けていないとは思わない。一般婦人はなお男子に対して一種の奴隷たるに甘んじているほど無智無感覚であるにしても、教育ある婦人で殊に選挙権ある男子の家庭にある婦人たちは時節柄その見聞に由っても政治上の興味を誘《そそ》られることがないとは限らない。まして世間に婦人の自覚が叫ばれて以来四、五年を経ているから、鈍感な私と違って、疾《と》くに政治の改造までに個性の自由を延長して考え、政界の腐敗に対して公憤を禁《とど》めかねている真成の新しい女たちが其処此処《そこここ》の家庭に人知れず分布されているであろうとも想像されるのである。(私は或階級の自堕落な女が昔から行っている乱行に類似したような放蕩《ほうとう》を敢《あえ》てして、個性の権威を自覚した女、新生活を建てた女と自負する一部の婦人たちに、英仏の優秀な急進派婦人の光栄である「新しい女」の称を下した批評家の悪戯を不快に思っている。)
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私はそういう日本の政治その他の近状に公憤を抱《いだ》いているほどの尊敬すべき婦人たちが多少にかかわらず選挙権ある男子の家庭に現存するものと考えて、その婦人たちに次の希望を寄せたい。
あなたがたに選挙権はない、しかしあなたがたが古くから日本の婦人に許された「内助」の特権を善用する時が来た。
あなたがたは党人の間に情実にも悪習にも染んでいない。あなたがたは恋人の心を直感するように敏捷《びんしょう》に、幼児《おさなご》を愛するように誠実に、時代の優良な新人物を選択することが出来るはずである。
あなたがたは選挙権ある男子の母であり、娘であり、妻であり、姉妹である位地から、選挙人の相談相手、顧問、忠告者、監視者となって、優良な新候補者を選挙人に推薦すると共に、情実に迷いやすい選挙人の良心を擁護することが出来る。
あなたがたの推薦する新候補者が政治家として全くの素人《しろうと》であることは少しも関《かま》わない。現代の政治が国民の生活を内に充実させると共に世界的に発展させることを目的とする以上、断えず進化する国民の文明と世界の大勢とを透感することに鋭敏であって、国民の生活を自由と誠実との中に改造する切実な意見を持っている優良の士を我々日本
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