やう》の辺りでは鞠《まり》を上へ放り上げながら歩いて居たのです。どうした拍子にか鞠《まり》はあの阪《さか》の中途にある米何《こめなに》とか云ふ邸《やしき》の門の中へ落ちたのださうです。光《ひかる》自身の物であればあの恥《はづか》しがる子がどうして知らない家へ拾ひに入《はひ》りませう、また貧しいと云つても自分の親には十や二十の鞠《まり》を買ふだけの力はあると信じて居ますから、もう一度帰つてから麹町の通《とほり》まで行《ゆ》けばいいと諦めた丈《だけ》で帰るのだつたのです。今の今迄|悦《よろこ》んで居た弟の淋しい泣顔を見てはじつとして居られないやうな気がしたのでせう、然《しか》もまだ二人だけであつたなら手を取り合つて帰つて来たかも知れませんが、従弟《いとこ》の心も自分と同じやうに茂《しげる》のために傷《いた》められて居るのであらうと見ては、一番年上の自分が勇気を出して見なければならないと思つたのでせう、光《ひかる》はその米何《こめなに》の門を五六歩|入《はひ》つて行つたのださうです。それだけで十一年の間|玉《たま》のやうに私の思つて来た子は無名の富豪の僕《ぼく》に罵られたのです。辱《はづかし
前へ
次へ
全33ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング