ます。この書物《かきもの》が不用になつて、また何年かの後《のち》に更に覚書を作るのであつたなら、この感は一層深いであらうと思ひます。私はもうその時分になつてはこんな物を長々と書くまいとも思ひ、一層書くことが多いであらうとも思はれます。私は併《しか》しながら話を聞くだけでも眩暈《めまひ》のしさうな光《ひかる》達の祖父の方《かた》がなすつたと云ふ子女の厳しい教育に比べて、煙管《きせる》の雁首《がんくび》でお撲《う》ちになつた傷痕《きずあと》が幾十と数へられぬ程あなた方《がた》御兄弟の頭に残つて居ると云ふやうなことに比べて、寛容をお誇りになるあなたであつても、生きた光《ひかる》達をお託しすることの不安さは何にも譬《たと》へられない程に思つて居るのです。あなたのお飼ひになる小鳥の籠を覆《くつがへ》すやうなことがあつても私の子は親の家を逐《お》はれるでせう。あなたが仏蘭西《フランス》からお持ち帰りになつた陶器の一つに傷を附けた時、私の子は旧《もと》に戻せと云ふことを幾百|度《たび》あなたから求められたでせう。私は此処《ここ》まで書いて来まして非常に気が昂《あが》つて来ました。母を持たない我子は孤
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