がある。
[#ここで字下げ終わり]
 こんなことが書いてあるのです。

     六

 私は阪本さんのために珍しく笑はせられながら、床の間の玩具棚《おもちやだな》を灯《ひ》の光で見ようとして行《ゆ》くのです。下の棚はがら空《あき》になつて居るのです。二段目にも隅の方《はう》に三郎のだつたがらがらが一つあるだけなのです。花樹《はなき》があの欠けた珈琲《こうひー》道具も、壊れかかつた物干の玩具《おもちや》も持つて行つたのかなどと私は思ふと云ふのです。三段目には蒲団が敷かれて人形の二つが並んで寝て居るのです。その前には木《こ》の葉や花の御馳走が供へられてあるのです。一人《ひとり》前だけです。花樹《はなき》さんお飲みなさいよと云つてあの茶碗の水は注《つ》がれたのであらうと私は想像をするのです。一番上の人形ばかりの段を見ますと、二つづヽあつたのが皆|対《つゐ》をなくして居るのです。瑞樹《みづき》だけでなくて沢山|双生児《ふたご》の欠片《かけら》が出来たと私は驚きます。
 私はもう帰らうとしてまた台所の方《はう》を一寸《ちよつと》覗《のぞ》きに行《ゆ》く気になると云ふのです。
 また電気灯を点《
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