痙攣《けいれん》したように縮みました。ちょうどもうあなたの丈夫な、白いお手に握られてしまったようでございました。あの時の苦しさを思えば、今の夫に不実をせられたと思った時の苦しさはなんでもございません。わたくしの美しい夢はこのとき消えてしまいました。
 わたくしはどうしてもあなたにお目に掛かるまいと決心いたしました。それと同時にわたくしは思いました。わたくしがあなたを思うほど、あなたがわたくしを思って下さるまでは、わたくしの心は永久に落ち着くことは出来まいと云うのでございます。わたくしを愛して下さることがあなたに出来るだろうかと云うのでございます。
 最初にあなたに上げた手紙に書き添えました事は嘘ではございません。わたくしは十六年前と今と格別変ってはいません。道を歩けば男の附いて来ることは昔の通りでございます。イソダンでそうだと申すのではございません。パリイで歩いても同じ事でございます。しかしあなたのためには、田舎女のわたくしがなんでございましょう。ほんのちょいとの間の気まぐれで、おもちゃにして下さるかも知れませんが、深い恋をして下さろうとは思われません。それがあの時わたくしの胸に電光の
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