たした時の最初の感じは失望でございました。Sport で鍛錬した、強壮なお体で、どんな女でも来てみろと云うお心持で、長椅子に掛けていらっしゃったあなたに失望いたしたので、昔の世慣れない姿勢の悪い青年でいらっしゃらないのに当惑いたしたのでございます。それで客間に這入り兼ねていました。
 その時あなたは起ち上がって戸の傍までおいでなさいました。わたくしはあなたを遺憾なくはっきり拝することが出来ました。わたくしは胸が裂けるように動悸がいたしました。そしてあなたが好きになりました。やはり十六年前の青年よりは今のあなたの方が好きだと存じました。
 あなたのような種類の人、あなたのように智慧がおありになり、しっかりしておいでになって、そして様子のいいお方、そう云う人にイソダンでめったに出逢うことのないのは当り前でございます。わたくしはすぐにそう思いました。こう云う人の前に出たら、わたくしは意志も何もない物になってしまいましょう。その人が気まぐれにどうでもすることの出来るおもちゃになってしまいましょう。
 そう云う運命に陥いるだろうと思ったので、わたくしは烈しい恐怖に襲われました。わたくしの心の臓は
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