わたくしはただいま白状いたします。わたくしはもう十六年前にあなたに恋をいたしていました。あなたが高等学校をお出になったばっかりの世慣れない青年でいらっしゃった時、わたくしはもうあなたに恋をいたしていました。しかしわたくしはあなたに誓います。それがわたくしに分かったのは一昨日のことでございます。あのロメエヌ町の白い客間にいらっしゃるのを隙見《すきみ》をいたした時、それが分かったのでございます。
 わたくしは隙見をいたしました。長い、長い間わたくしはあの硝子戸《ガラスど》の傍に立ってあなたを見ていました。あなたの方からは見えませんのですが、わたくしは暗い方にいましたからあなたをはっきり見ることが出来ました。決してわたくしが陰険な事をいたしたとか、あなたを羂《わな》に掛けたとかお思いになってはいけません。わたくしは戸を開けるつもりで戸の傍に歩み寄って、ただちょっとあなたの御様子を開ける前に見たいと存じただけでございます。あなたは心理学者でいらっしゃいますから、これがまたひどく女らしい振舞だとお思いなさいましょうね。
 あの一|刹那《せつな》にわたくしの運命は定まったのでございます。わたくしは
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