でしょうが、あれなんぞが本当に女らしいいたしかたではございませんか。女と云うものは本当に衝動的なものでございますね。わたくし達は衝動に騙《だま》されて、咄嗟《とっさ》の間にいろんな事をいたします。そしてその時はその動機を認めずにいるのでございます。それを男の方が狡猾《こうかつ》だとおっしゃるのでございます。
そこであの手紙を差上げます。電報の御返事が参ります。女中を連れてパリイへ出て、ロメエヌ町の家に落ち着いて、あなたを御待ち受け申します。その時も多少興奮いたしているようではございましたが、自分のする事が心配になるとか、気づかわしいとか云うことはございませんでした。興奮いたしているとは存じましても、それがあなたに恋をしているからだなんぞとは思いませんでした。とうとうわたくしは恋と云う字を書いてしまいました。これを書いてしまえば、わたくしは重荷を卸したと申しましてもよろしゅうございます。もうこれでわたくしがあなたを騙したのだとはおっしゃいますまい。わたくしは安んじて恋と云う字を書きます。私の申しわけ、わたくしの取留めの無い挙動の申しわけはこの一字に在るのでございます。
ピエエルさん。
前へ
次へ
全38ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
プレヴォー マルセル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング