まイソダンに立っていたって、なんの不思議もあるまい。町に面した住いは低く出来ていて、入口の左右に小さい店がある。入口から這入《はい》る所は狭いベトンの道になっていて、それが綺麗に掃除してある。奥の正面に引っ込んだ住いがある。別荘造りのような構えで、真ん中に広い階段があって、右の隅に寄せて勝手口の梯《はしご》が設けてある。家番《やばん》に問えば、目指す家は奥の住いだと云った。
 オオビュルナンは階段を登ってベルを鳴らした。戸の内で囁《ささや》く声と足音とがして、しばらくしてから戸が開いた。出て来たのは三十歳ばかりの下女で、人を馬鹿にしたような顔をして客を見ている。
「ジネストの奥さんはおいでかね。」
 下女は黙って客間の口を指さした。オオビュルナンはそこへ這入った。室内装飾は有りふれた現代式である。白地に文様のある紙で壁を張り、やはり白地に文様のある布で家具が包んである。木道具や窓の龕《がん》が茶色にくすんで見えるのに、幼穉《ようち》な現代式が施してあるので、異様な感じがする。一方に白塗のピアノが据《す》え附けてあって、その傍に Liberty の薄絹を張った硝子戸《ガラスど》がある。隣
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