》」近づけり。祭司《さいし》[#「祭司」は底本では「祭史」]の長《をさ》学者たち、如何《いか》にしてかイエスを殺さんと窺《うかが》ふ。但《ただ》民を畏《おそ》れたり。偖《さて》悪魔十二の中《うち》のイスカリオテと称《とな》ふるユダに憑《つ》きぬ。ユダ橄欖《かんらん》の林を歩める時、悪魔彼に云ひけるは、「イエスを祭司の長《をさ》たちに売《わた》せ。然《さ》すれば三十枚の銀子《ぎんす》を得べし。」されどユダ耳を蔽ひ、林の外に走り去れり。後又イエルサレムの町をさまよへる時、悪魔彼に云ひけるは、「イエスを祭司の長《をさ》たちに売《わた》せ。然《さ》らずば爾《なんぢ》もイエスと共に、必《かならず》十字架に釘《つ》けらるべし。」されどユダ耳を蔽ひ、イエスのもとに走り去れり。イエス彼に云ひけるは、「ユダよ。我誠に爾《なんぢ》[#ルビの「なんぢ」は底本では「なんじ」]を知る。爾は荒野《あらの》の獅子《しし》よりも強し。但《ただ》小羊《こひつじ》の心を忘るる勿《なか》れ。」ユダ、イエスの言葉を悦べり。されどその意味を覚《さと》らざりき。逾越《すぎこし》の祭《まつり》来りし時、イエス弟子と共に食に就けり。
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