も、聞えるのはただ男の喉《のど》に、断末魔《だんまつま》の音がするだけです。
事によるとあの女は、わたしが太刀打を始めるが早いか、人の助けでも呼ぶために、藪をくぐって逃げたのかも知れない。――わたしはそう考えると、今度はわたしの命ですから、太刀や弓矢を奪ったなり、すぐにまたもとの山路《やまみち》へ出ました。そこにはまだ女の馬が、静かに草を食っています。その後《ご》の事は申し上げるだけ、無用の口数《くちかず》に過ぎますまい。ただ、都《みやこ》へはいる前に、太刀だけはもう手放していました。――わたしの白状はこれだけです。どうせ一度は樗《おうち》の梢《こずえ》に、懸ける首と思っていますから、どうか極刑《ごっけい》に遇わせて下さい。(昂然《こうぜん》たる態度)
清水寺に来れる女の懺悔《ざんげ》
――その紺《こん》の水干《すいかん》を着た男は、わたしを手ごめにしてしまうと、縛られた夫を眺めながら、嘲《あざけ》るように笑いました。夫はどんなに無念だったでしょう。が、いくら身悶《みもだ》えをしても、体中《からだじゅう》にかかった縄目《なわめ》は、一層ひしひしと食い入るだけです。わた
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